WBA世界ミドル級タイトルマッチ
正規王者・アッサン・エンダムvs挑戦者・村田諒太
2017.10.22 東京・両国国技館
この試合、リアルタイムで見ていた。
どこか違和感を覚えていた。
エンダムの身体に力が入っていない。
試合後、ある情報が流れた。
「エンダムの体調が最悪であった」
ニュースから転載する。
『9月に左足首を負傷。直後にキャンプのため米マイアミに入ったが、今度は40度近い発熱に苦しみ、おまけに大型ハリケーンの影響でジムも使えなかったという。「キャンセルも考えたが、トリプル世界戦でもあったので」とこぼした。』
世界戦のリングにおいてダウンも喫していない状態での棄権は稀なことである。
『エンダムは8回を前に棄権した。「無駄にパンチを受けない決断をした」。5回あたりから体調に異変を感じた。セコンドに「もらうはずのない左ジャブをもらう。いつもの状態ではない」と棄権を勧められたという。』
序盤からエンダムは村田を過剰に恐れているように見えた。
前回の試合で「村田の右」の威力は身をもって感じている。
ダウンも奪われた。
村田のベストパンチをもらってはいけない。
今回の試合の重要なテーマであったと思う。
村田は中間距離よりも若干遠い位置を得意とする。
村田はこの位置から伸びるように放たれる右ストレートを合わせていく。
エンダムが注意していたのは距離である。
アウトボクシングで距離をとるか、
一気に間合いを縮めて距離を詰めるか。
至近距離ではクリンチを多用した。
なぜ?
疑問を感じる。
村田の強烈なパンチを受けているのであればクリンチをしても構わない。
しかし、まだ村田が手を出す前からクリンチを始めていたのだ。
前回の試合、
村田はエンダムを実像以上の存在として受け止めていた。
「エンダムはダウンを喫しても回復が早い」
村田はこの幻影に怯えていた。
ダウンを奪っても、
勝機があっても、
エンダムに対して踏み込んでいかない。
「エンダムは回復が早い」
目の前にいるエンダムの姿よりも、
事前にリサーチをかけていた情報を重視した。
これにより、
村田は不自然なほどに消極的なボクシングを展開することになる。
今回の試合、
これが逆転していた。
エンダムが村田を実情以上の存在として見ていたのではないか。
村田が何もしていない段階でエンダムは過剰に守りに入っている。
前回のように、
中間距離で手数を出せば良かったのに。
村田はどこか臆病なところがある。
前回の試合、
向かい合ったのは「ミドル級の世界王者」。
いよいよミドル級の世界最高峰の相手と試合をする。
自分が世界最高の男に通用するのか?
自分への疑念。
自信を持って試合に挑むということができない。
ガードをして、
相手の出方を見て、
パンチの軌道を読んで、
試合中でありながらもエンダムをリサーチしている。
これは本番の試合なのだ。
リサーチしている場合ではない。
もっと攻め込め!
村田のボクシングは消極的に映っていた。
微妙な判定。
エンダムに僅差で敗れた。
世間からは「村田が勝っていた」との声が爆発。
WBAでも大問題となり、
異例ともいえるダイレクトリマッチが組まれた。
村田は感じとった。
「自分のボクシングはミドル級の世界最高峰でも通用する」
序盤から村田は自身にGOサインを出していた。
やる時はやる。
ダイレクトでの右を放つ。
1発、2発、倒すという気迫が伝わってくる。
エンダムを気持ちで押している。
村田は試合中にも関わらず笑顔を見せていた。
「村田はこの試合を楽しんでいる」
エンダムからすれば脅威に感じたことだろう。
エンダムが至近距離をとってくることは村田陣営でも予測していた。
今回、練習してきたのは至近距離での攻撃。
ショートでのフック、アッパー、そしてストレート。
村田の狙いが的中。
ショートでのパンチでエンダムを圧倒する。
これに怯んだエンダムはバックステップで距離をとる。
エンダムの戦術がまとまらない。
至近距離での戦いに引きずり込み、
自身のパンチを当ててすぐにクリンチで逃げるのか。
アウトボクシングを展開して、
入っては出て、入っては出てを繰り返すのか。
エンダムの動揺。
途中からエンダムの身体に力が入っていないことが明白になっていく。
エンダムはディフェンス能力の高い選手である。
いくら村田が練習してきたとはいえ、
村田のパンチを被弾する回数が多すぎる。
村田は自信を持っている「右のパンチ」に比べて、
「左のパンチ」が極端に弱い。
通常は左を多用して右を当てていくのだが、
村田は本能でも「左では倒せない」とわかっているのだろう。
ダイレクトでの右というパターンが多い。
エンダムのディフェンス能力があれば、
ダイレクトでの右をここまで被弾するはずがない。
ボクサーからすれば、
ダイレクトでの右を当てさせてもらえるのであればこんなにありがたい話はない。
ただ、思いっきり「ぶん殴ればいい」のだから。
しかし、ボクシングは「パンチングマシーン」をぶん殴るのとは違う。
相手は人間であり、的を絞らせないよう不可測に動いてくる。
だからこそ、まずは左を多用していく必要があるのだ。
村田は「相手を倒す」=「右でぶん殴る」と考えている。
プロ転向後の試合も、
ずっとダイレクトでの右に頼ってきた。
この右が当たらずにやきもきしてきた。
村田が進化するには、
いかに左を有効に使えるかがテーマであったはず。
今回、
エンダムが不調であったがゆえに村田の左が当たっていく。
左ジャブ、
左でのボディ、
左が当たるから自然と次につながる右が出る。
左から右、左左と続けてからの右、
村田のボクシングにスムーズなコンビネーションが生まれ始めていた。
村田のボクシングが進化していく。
アマチュア色の強いボクシングスタイルから、
プロボクシングの世界においての「自分のスタイル」を見出したのか。
前回の試合、
村田は試合をしている「当事者」であったはずなのに、
どこか「傍観者」の位置にいたような気がする。
試合の最後まで傍観者であり続けた。
判定の結果を聞いた時も、
他人事としてその事実を見つめていた印象がある。
今回の試合、
村田は当事者であった。
エンダムを客観的に見るのではなく、
目の前で試合をする対戦相手として見ていた。
TKOでの勝利が決まった時、
村田の顔が一気に崩れた。
前回の試合、
あの判定が発表される場面において、
「勝者・村田諒太」とコールをされてもこんな表情を見せることはなかっただろう。
自分が行う試合を、
傍観者として見ているのか、
当事者として見ているのか。
ここには大きな違いがあって当然である。
今回、
いろんな意味で「熱い」村田を見ることができたような気がする。
気持ちを前面に出して戦ったこと。
必死にパンチを出していったこと。
試合後にはプレッシャーから解放された柔らかい表情を見せたこと。
村田から人間臭さを感じた。
多くの人間が望んでいたことはこれではなかっただろうか。
スポーツの世界でも、
やはり人間は人間が見たいのだ。
血の通った人間が生み出す人間ドラマ。
ここに感動するのだから。
これから、
村田には更なる強敵との戦いが待ち受けている。
期待と不安。
しかし、今は勝利の余韻に浸っていたい。
エンダムの不調も含めて、
この日の夜は村田諒大のためにあったのだ。
勝利の女神は村田に微笑んだ。
正規王者・アッサン・エンダムvs挑戦者・村田諒太
2017.10.22 東京・両国国技館
この試合、リアルタイムで見ていた。
どこか違和感を覚えていた。
エンダムの身体に力が入っていない。
試合後、ある情報が流れた。
「エンダムの体調が最悪であった」
ニュースから転載する。
『9月に左足首を負傷。直後にキャンプのため米マイアミに入ったが、今度は40度近い発熱に苦しみ、おまけに大型ハリケーンの影響でジムも使えなかったという。「キャンセルも考えたが、トリプル世界戦でもあったので」とこぼした。』
世界戦のリングにおいてダウンも喫していない状態での棄権は稀なことである。
『エンダムは8回を前に棄権した。「無駄にパンチを受けない決断をした」。5回あたりから体調に異変を感じた。セコンドに「もらうはずのない左ジャブをもらう。いつもの状態ではない」と棄権を勧められたという。』
序盤からエンダムは村田を過剰に恐れているように見えた。
前回の試合で「村田の右」の威力は身をもって感じている。
ダウンも奪われた。
村田のベストパンチをもらってはいけない。
今回の試合の重要なテーマであったと思う。
村田は中間距離よりも若干遠い位置を得意とする。
村田はこの位置から伸びるように放たれる右ストレートを合わせていく。
エンダムが注意していたのは距離である。
アウトボクシングで距離をとるか、
一気に間合いを縮めて距離を詰めるか。
至近距離ではクリンチを多用した。
なぜ?
疑問を感じる。
村田の強烈なパンチを受けているのであればクリンチをしても構わない。
しかし、まだ村田が手を出す前からクリンチを始めていたのだ。
前回の試合、
村田はエンダムを実像以上の存在として受け止めていた。
「エンダムはダウンを喫しても回復が早い」
村田はこの幻影に怯えていた。
ダウンを奪っても、
勝機があっても、
エンダムに対して踏み込んでいかない。
「エンダムは回復が早い」
目の前にいるエンダムの姿よりも、
事前にリサーチをかけていた情報を重視した。
これにより、
村田は不自然なほどに消極的なボクシングを展開することになる。
今回の試合、
これが逆転していた。
エンダムが村田を実情以上の存在として見ていたのではないか。
村田が何もしていない段階でエンダムは過剰に守りに入っている。
前回のように、
中間距離で手数を出せば良かったのに。
村田はどこか臆病なところがある。
前回の試合、
向かい合ったのは「ミドル級の世界王者」。
いよいよミドル級の世界最高峰の相手と試合をする。
自分が世界最高の男に通用するのか?
自分への疑念。
自信を持って試合に挑むということができない。
ガードをして、
相手の出方を見て、
パンチの軌道を読んで、
試合中でありながらもエンダムをリサーチしている。
これは本番の試合なのだ。
リサーチしている場合ではない。
もっと攻め込め!
村田のボクシングは消極的に映っていた。
微妙な判定。
エンダムに僅差で敗れた。
世間からは「村田が勝っていた」との声が爆発。
WBAでも大問題となり、
異例ともいえるダイレクトリマッチが組まれた。
村田は感じとった。
「自分のボクシングはミドル級の世界最高峰でも通用する」
序盤から村田は自身にGOサインを出していた。
やる時はやる。
ダイレクトでの右を放つ。
1発、2発、倒すという気迫が伝わってくる。
エンダムを気持ちで押している。
村田は試合中にも関わらず笑顔を見せていた。
「村田はこの試合を楽しんでいる」
エンダムからすれば脅威に感じたことだろう。
エンダムが至近距離をとってくることは村田陣営でも予測していた。
今回、練習してきたのは至近距離での攻撃。
ショートでのフック、アッパー、そしてストレート。
村田の狙いが的中。
ショートでのパンチでエンダムを圧倒する。
これに怯んだエンダムはバックステップで距離をとる。
エンダムの戦術がまとまらない。
至近距離での戦いに引きずり込み、
自身のパンチを当ててすぐにクリンチで逃げるのか。
アウトボクシングを展開して、
入っては出て、入っては出てを繰り返すのか。
エンダムの動揺。
途中からエンダムの身体に力が入っていないことが明白になっていく。
エンダムはディフェンス能力の高い選手である。
いくら村田が練習してきたとはいえ、
村田のパンチを被弾する回数が多すぎる。
村田は自信を持っている「右のパンチ」に比べて、
「左のパンチ」が極端に弱い。
通常は左を多用して右を当てていくのだが、
村田は本能でも「左では倒せない」とわかっているのだろう。
ダイレクトでの右というパターンが多い。
エンダムのディフェンス能力があれば、
ダイレクトでの右をここまで被弾するはずがない。
ボクサーからすれば、
ダイレクトでの右を当てさせてもらえるのであればこんなにありがたい話はない。
ただ、思いっきり「ぶん殴ればいい」のだから。
しかし、ボクシングは「パンチングマシーン」をぶん殴るのとは違う。
相手は人間であり、的を絞らせないよう不可測に動いてくる。
だからこそ、まずは左を多用していく必要があるのだ。
村田は「相手を倒す」=「右でぶん殴る」と考えている。
プロ転向後の試合も、
ずっとダイレクトでの右に頼ってきた。
この右が当たらずにやきもきしてきた。
村田が進化するには、
いかに左を有効に使えるかがテーマであったはず。
今回、
エンダムが不調であったがゆえに村田の左が当たっていく。
左ジャブ、
左でのボディ、
左が当たるから自然と次につながる右が出る。
左から右、左左と続けてからの右、
村田のボクシングにスムーズなコンビネーションが生まれ始めていた。
村田のボクシングが進化していく。
アマチュア色の強いボクシングスタイルから、
プロボクシングの世界においての「自分のスタイル」を見出したのか。
前回の試合、
村田は試合をしている「当事者」であったはずなのに、
どこか「傍観者」の位置にいたような気がする。
試合の最後まで傍観者であり続けた。
判定の結果を聞いた時も、
他人事としてその事実を見つめていた印象がある。
今回の試合、
村田は当事者であった。
エンダムを客観的に見るのではなく、
目の前で試合をする対戦相手として見ていた。
TKOでの勝利が決まった時、
村田の顔が一気に崩れた。
前回の試合、
あの判定が発表される場面において、
「勝者・村田諒太」とコールをされてもこんな表情を見せることはなかっただろう。
自分が行う試合を、
傍観者として見ているのか、
当事者として見ているのか。
ここには大きな違いがあって当然である。
今回、
いろんな意味で「熱い」村田を見ることができたような気がする。
気持ちを前面に出して戦ったこと。
必死にパンチを出していったこと。
試合後にはプレッシャーから解放された柔らかい表情を見せたこと。
村田から人間臭さを感じた。
多くの人間が望んでいたことはこれではなかっただろうか。
スポーツの世界でも、
やはり人間は人間が見たいのだ。
血の通った人間が生み出す人間ドラマ。
ここに感動するのだから。
これから、
村田には更なる強敵との戦いが待ち受けている。
期待と不安。
しかし、今は勝利の余韻に浸っていたい。
エンダムの不調も含めて、
この日の夜は村田諒大のためにあったのだ。
勝利の女神は村田に微笑んだ。
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