WBA世界スーパーフェザー級タイトルマッチ
スーパー王者・内山高志vs暫定王者・ジェスレル・コラレス
衝撃的なニュースが入ってきた。
「内山が2ラウンドにKO負け」。
私はこの試合、リアルタイムでは見ていない。
映像を見るまでは、いや見た今でもこの事実が受けとめられないでいる。
内山が負けるなどというシーンはどうやってもイメージできなかった。
夢でも見ているかのような気分だ。
もともと、今回の防衛戦はアメリカで行う予定だった。
満を持して内山がアメリカでのデビューを飾る。
対戦相手は世界的に知名度のあるウォータースというシナリオがあった。
そしてこのシナリオ通りにウォータースとの交渉がまとまりかけたのだが、思わぬ形で暗雲が立ち込めていくことになる。
米・ボクシング中継における最大手のテレビ局であるHBOが、内山vs.ウォータースの一戦に難色を示したのだ。
世界タイトルマッチとなればテレビ中継は絶対に必要となる。
この際、テレビ局が難色を示した時点でタイトルマッチが成立しないのは当然のこと。
こうやってウォータース戦が難航していた時に、WBAから指令が出される。
「王座を統一せよ」
つまり、正規王者・フォルトゥナとの王座統一戦を義務づけるということだ。
これを受けてウォータースからフォルトナへと矛先を変えたものの、あくまでもアメリカでの試合実現という軸はブレさせずに交渉を進める方針で固めていた。
しかし、またもやテレビ放映がネックとなり決裂することになる。
ここでアメリカは一時的に断念し、日本国内でのフォルトナとの一戦に向けた交渉をしたのだが、フォルトナ側が高額なファイトマネーを要求してくるなど予想外の展開を迎えることになってしまう。
ここでWBAの承認を取りつけ、まずは暫定王者・コラレスとの王座統一戦を行うという方向で話をまとめたのだ。
内山のモチベーションは落ちたことだろう。
もう何年も前からアメリカ進出を夢見てきた。
今回はそれが実現できると聞かされていたのに、通常の国内での防衛戦になってしまったのだ。
仮にコラレス戦に勝利したとしても、その次はフォルトナとの統一戦が濃厚となる。
開催は8月下旬から9月上旬。
今回、アメリカでのテレビの問題がネックとなったとすれば、次だって難しいと考えるのが妥当であろう。
夏の終わりに日本国内でのフォルトナ戦。
それに勝っても、その次は恒例となった大みそかの興行になる。
つまり、事実上、年内にはアメリカ進出が実現しないということが確定してしまったのだ。
具志堅用高の記録はアメリカで抜きたいという夢も叶わない。
内山は、どうやってモチベーションを持てばいいのか。
コラレス戦、第1ラウンド。
コラレスの動きが良い。
変則的なスタイル、スピードがあり身体そのものにも力がある。
抜群の身体能力の高さがうかがえる。
コラレスのフックは軌道が大きい。
通常フックはコンパクトにまとめた方が相手にヒットする確率は高くなるのだが、コラレスの場合はパンチにスピードがあるため軌道が大きくても問題がない。
また内山から見て、軌道の大きなフックは視界の外から飛んでくるようなパンチに見えたことと思う。
「やりづらさがあった。スピードもあるな、と。やったことがない感覚の相手。左も見えづらかった」
内山はこうコメントしている。
このコラレスにどう立ち向かえばいいのか。
内山の頭には当然「KOでの勝利」というイメージがある。
内山のパンチは凄まじいほどの破壊力を持っている。
まともに当たればコラレスだってぶっ倒れるだろう。
序盤、内山は渾身のパンチが当たるタイミング、間合いを探っていく。
つまりコツコツとジャブを当てて相手を弱らせていくというような戦術はとらない。
あくまでも一撃を狙うための下準備を整えていくのだ。
今まではこれで勝ってきた。
ここ数試合は、この下準備の段階で(MAXでのパンチを叩きこむ前に)倒してしまった。
しかし、直感で今回は危ないと思ったのではないか。
岐路に立った。
内山には大きく分けて2つの選択肢がある。
あくまでも攻撃にこだわるか、守備に重点を置くか。
私がセコンドなら、いや内山本人なら守備に徹することを選んだと思う。
コラレスは危険なパンチをブンブンと振り回してきた。
内山の頭部をかすめていく。
であるならば、内山はガードをこめかみまで上げて、しっかりとパンチをブロックする必要がある。
コラレスが「やったことがない相手の感覚」であるのなら、こうやってパンチを防ぎながら相手の動きを見切ることができるまでは耐えしのぐべきだろう。
しかし、内山は攻撃を選んだ。
しかもコツコツとジャブを当てるという類のものではなく、あくまでも一撃を当てるための下準備というスタンスを崩さない。
コラレスの動きがつかめていない段階で、なぜこれにこだわったのか。
少なくともガードが低すぎる。
ラウンドの後半、コラレスのパンチが内山の頭部を襲う。
内山は明らかなダメージを感じていた。
「これは危ないのではないか?」
見ていた誰もがそう思ったことだろう。
2ラウンド。
1ラウンドでポイントをとられた内山が反撃に出る。
とられたものはとり返す。
この気持ちは素晴らしいが、身体がそれについていかない。
内山のエンジンはまだ温まっていない。
しかもコラレスの動きもつかめていない段階で前進を試みる。
コラレスのパンチの餌食となってしまった。
ドンピシャで入ったカウンターの左フック。
糸の切れた操り人形がスローモーションのように沈んでいく。
内山の下半身から力が抜けていった。
立ち上がっても、もう強烈なパンチが放てないことは明確であった。
放送席から、クリンチでもいいからこのラウンドを耐えてほしいという声が飛ぶ。
耐えればいい。
ダメージから回復さえできれば、またチャンスはやってくるから。
しかし、内山はまた攻撃を選んだ。
隙を見ては前に出るという姿勢を崩さない。
内山のプライドか、意地か、
それともディフェンシブな戦い方をするくらいなら負けを選ぶという潔さがそうさせたのか…。
結果的に3度、キャンバスに沈んだ。
2ラウンドKO負け。
これだけ見れば完敗である。
しかし、私には完敗に見えなかった。
まだ余力がある。
ただ、いつもの内山ではなかった気がするのだ。
覇気がない。
身体そのものに力が入っていないような。
試合前、内山はこう語っていた。
「フォルトゥナとやるイメージが強かったので、だいぶイメージトレーニングはしていました。その前はウォータースでほぼ決まりという話も聞いていた。こうなるとは思っていなかったので、モチベーションが下がった部分はありますね」
もし、この試合。
アメリカで行われていたらどうなっていたのだろうか。
世界が注目する大舞台で、ウォータースと激突していたら。
内山のダイナマイトが爆発していたのではないだろうか。
内山には失礼な言葉となってしまうかもしれないが、私は内山がかわいそうだと思う。
ここまで強い男が、6年3ヶ月もの期間にわたってベルトを保持してきた男がなぜ世界が注目するリングに上がれないのか。
内山ほどの実績と強さを見せつけてきて無理だというなら、今後の日本人ボクサーたちは夢を持てなくなる。
できる人間は、それ相応の舞台に上がるべきだし、それ相応の評価を受けるべきだ。
内山は日本ボクシング界の歴史に名を刻めるスーパーチャンピオンだと思う。
日本ボクシングファンたちの誇りであり、希望であったはずだ。
なぜ、ここまでの男がアメリカで試合ができないのか。
納得ができない。
36歳という年齢。
今後、ボクシングを続けるかどうかは難しい判断になってくると思う。
しかし、内山が引退を決意したとして、素直に「お疲れ様でした」と言う気になれるだろうか。
悔いのないボクシング人生だったと言えるのだろうか。
今年の大晦日、内山は復帰するべきだと思う。
そして、コラレスに3倍返しのダイナマイトパンチを叩きこんでもらいたい。
怒ればいいのだ。
内山は悪くない。
アメリカでの試合が実現しなかったという、この事実こそに責任があるのだから。
ウォータースとだって試合をしてほしい。
アメリカが無理ならアメリカでなくてもいいではないか。
内山の剛腕を、1発2発とフルパワーで振り抜いてほしいのだ。
まだ内山高志は終わっていない。
怒ってほしい。
こんなところで終わる器ではない。
内山の復活に期待している。
スーパー王者・内山高志vs暫定王者・ジェスレル・コラレス
衝撃的なニュースが入ってきた。
「内山が2ラウンドにKO負け」。
私はこの試合、リアルタイムでは見ていない。
映像を見るまでは、いや見た今でもこの事実が受けとめられないでいる。
内山が負けるなどというシーンはどうやってもイメージできなかった。
夢でも見ているかのような気分だ。
もともと、今回の防衛戦はアメリカで行う予定だった。
満を持して内山がアメリカでのデビューを飾る。
対戦相手は世界的に知名度のあるウォータースというシナリオがあった。
そしてこのシナリオ通りにウォータースとの交渉がまとまりかけたのだが、思わぬ形で暗雲が立ち込めていくことになる。
米・ボクシング中継における最大手のテレビ局であるHBOが、内山vs.ウォータースの一戦に難色を示したのだ。
世界タイトルマッチとなればテレビ中継は絶対に必要となる。
この際、テレビ局が難色を示した時点でタイトルマッチが成立しないのは当然のこと。
こうやってウォータース戦が難航していた時に、WBAから指令が出される。
「王座を統一せよ」
つまり、正規王者・フォルトゥナとの王座統一戦を義務づけるということだ。
これを受けてウォータースからフォルトナへと矛先を変えたものの、あくまでもアメリカでの試合実現という軸はブレさせずに交渉を進める方針で固めていた。
しかし、またもやテレビ放映がネックとなり決裂することになる。
ここでアメリカは一時的に断念し、日本国内でのフォルトナとの一戦に向けた交渉をしたのだが、フォルトナ側が高額なファイトマネーを要求してくるなど予想外の展開を迎えることになってしまう。
ここでWBAの承認を取りつけ、まずは暫定王者・コラレスとの王座統一戦を行うという方向で話をまとめたのだ。
内山のモチベーションは落ちたことだろう。
もう何年も前からアメリカ進出を夢見てきた。
今回はそれが実現できると聞かされていたのに、通常の国内での防衛戦になってしまったのだ。
仮にコラレス戦に勝利したとしても、その次はフォルトナとの統一戦が濃厚となる。
開催は8月下旬から9月上旬。
今回、アメリカでのテレビの問題がネックとなったとすれば、次だって難しいと考えるのが妥当であろう。
夏の終わりに日本国内でのフォルトナ戦。
それに勝っても、その次は恒例となった大みそかの興行になる。
つまり、事実上、年内にはアメリカ進出が実現しないということが確定してしまったのだ。
具志堅用高の記録はアメリカで抜きたいという夢も叶わない。
内山は、どうやってモチベーションを持てばいいのか。
コラレス戦、第1ラウンド。
コラレスの動きが良い。
変則的なスタイル、スピードがあり身体そのものにも力がある。
抜群の身体能力の高さがうかがえる。
コラレスのフックは軌道が大きい。
通常フックはコンパクトにまとめた方が相手にヒットする確率は高くなるのだが、コラレスの場合はパンチにスピードがあるため軌道が大きくても問題がない。
また内山から見て、軌道の大きなフックは視界の外から飛んでくるようなパンチに見えたことと思う。
「やりづらさがあった。スピードもあるな、と。やったことがない感覚の相手。左も見えづらかった」
内山はこうコメントしている。
このコラレスにどう立ち向かえばいいのか。
内山の頭には当然「KOでの勝利」というイメージがある。
内山のパンチは凄まじいほどの破壊力を持っている。
まともに当たればコラレスだってぶっ倒れるだろう。
序盤、内山は渾身のパンチが当たるタイミング、間合いを探っていく。
つまりコツコツとジャブを当てて相手を弱らせていくというような戦術はとらない。
あくまでも一撃を狙うための下準備を整えていくのだ。
今まではこれで勝ってきた。
ここ数試合は、この下準備の段階で(MAXでのパンチを叩きこむ前に)倒してしまった。
しかし、直感で今回は危ないと思ったのではないか。
岐路に立った。
内山には大きく分けて2つの選択肢がある。
あくまでも攻撃にこだわるか、守備に重点を置くか。
私がセコンドなら、いや内山本人なら守備に徹することを選んだと思う。
コラレスは危険なパンチをブンブンと振り回してきた。
内山の頭部をかすめていく。
であるならば、内山はガードをこめかみまで上げて、しっかりとパンチをブロックする必要がある。
コラレスが「やったことがない相手の感覚」であるのなら、こうやってパンチを防ぎながら相手の動きを見切ることができるまでは耐えしのぐべきだろう。
しかし、内山は攻撃を選んだ。
しかもコツコツとジャブを当てるという類のものではなく、あくまでも一撃を当てるための下準備というスタンスを崩さない。
コラレスの動きがつかめていない段階で、なぜこれにこだわったのか。
少なくともガードが低すぎる。
ラウンドの後半、コラレスのパンチが内山の頭部を襲う。
内山は明らかなダメージを感じていた。
「これは危ないのではないか?」
見ていた誰もがそう思ったことだろう。
2ラウンド。
1ラウンドでポイントをとられた内山が反撃に出る。
とられたものはとり返す。
この気持ちは素晴らしいが、身体がそれについていかない。
内山のエンジンはまだ温まっていない。
しかもコラレスの動きもつかめていない段階で前進を試みる。
コラレスのパンチの餌食となってしまった。
ドンピシャで入ったカウンターの左フック。
糸の切れた操り人形がスローモーションのように沈んでいく。
内山の下半身から力が抜けていった。
立ち上がっても、もう強烈なパンチが放てないことは明確であった。
放送席から、クリンチでもいいからこのラウンドを耐えてほしいという声が飛ぶ。
耐えればいい。
ダメージから回復さえできれば、またチャンスはやってくるから。
しかし、内山はまた攻撃を選んだ。
隙を見ては前に出るという姿勢を崩さない。
内山のプライドか、意地か、
それともディフェンシブな戦い方をするくらいなら負けを選ぶという潔さがそうさせたのか…。
結果的に3度、キャンバスに沈んだ。
2ラウンドKO負け。
これだけ見れば完敗である。
しかし、私には完敗に見えなかった。
まだ余力がある。
ただ、いつもの内山ではなかった気がするのだ。
覇気がない。
身体そのものに力が入っていないような。
試合前、内山はこう語っていた。
「フォルトゥナとやるイメージが強かったので、だいぶイメージトレーニングはしていました。その前はウォータースでほぼ決まりという話も聞いていた。こうなるとは思っていなかったので、モチベーションが下がった部分はありますね」
もし、この試合。
アメリカで行われていたらどうなっていたのだろうか。
世界が注目する大舞台で、ウォータースと激突していたら。
内山のダイナマイトが爆発していたのではないだろうか。
内山には失礼な言葉となってしまうかもしれないが、私は内山がかわいそうだと思う。
ここまで強い男が、6年3ヶ月もの期間にわたってベルトを保持してきた男がなぜ世界が注目するリングに上がれないのか。
内山ほどの実績と強さを見せつけてきて無理だというなら、今後の日本人ボクサーたちは夢を持てなくなる。
できる人間は、それ相応の舞台に上がるべきだし、それ相応の評価を受けるべきだ。
内山は日本ボクシング界の歴史に名を刻めるスーパーチャンピオンだと思う。
日本ボクシングファンたちの誇りであり、希望であったはずだ。
なぜ、ここまでの男がアメリカで試合ができないのか。
納得ができない。
36歳という年齢。
今後、ボクシングを続けるかどうかは難しい判断になってくると思う。
しかし、内山が引退を決意したとして、素直に「お疲れ様でした」と言う気になれるだろうか。
悔いのないボクシング人生だったと言えるのだろうか。
今年の大晦日、内山は復帰するべきだと思う。
そして、コラレスに3倍返しのダイナマイトパンチを叩きこんでもらいたい。
怒ればいいのだ。
内山は悪くない。
アメリカでの試合が実現しなかったという、この事実こそに責任があるのだから。
ウォータースとだって試合をしてほしい。
アメリカが無理ならアメリカでなくてもいいではないか。
内山の剛腕を、1発2発とフルパワーで振り抜いてほしいのだ。
まだ内山高志は終わっていない。
怒ってほしい。
こんなところで終わる器ではない。
内山の復活に期待している。
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