ルイス・ネリvs山中慎介~WBC世界バンタム級タイトルマッチ 2018・3・1

saito

2018年03月02日 03:12

WBC世界バンタム級タイトルマッチ

前王者・ルイス・ネリvs元王者・山中慎介

東京・両国国技館  2018・3・1



この試合の前日に衝撃が走った。

公式計量の会場で山中の「ふざけるな」という声が響いたからだ。


ネリが体重計に乗った。

その針は1階級上のスーパーバンタム級を超える55.8キロを指していた。

2.3キロオーバーなど異例中の異例である。

2時間後、再び計量を行ったが54.8キロ。

この時点でネリのタイトルは剥奪された。


ここで疑問が残る。

ネリは2時間で1キロを落としてきた。

1度目の軽量の段階でネリの肉体がカラカラのスポンジ状態であったとするならば、2時間での1キロは難しかったのではないか。

ということはネリの肉体は余裕をもっていた?

ネリの体重超過は確信犯であったのか?


前回の試合、ドーピングの検査で陽性が出た。

ドーピングをしていたのか、していなかったのか。

この真相はネリ本人にしかわからない。


ただ今回の体重超過を受けた時に、前回のドーピングは限りなく「クロ」であると疑わざるを得ない。


山中がどれほどの気持ちを作ってこの試合にかけようとしていたのか…、

これを考えると胸が締めつけられる思いがする。


正々堂々としたフェアな試合に挑ませてあげたかった。


「勝っても負けてもこれが最後」

山中はそう思っていただろう。


国内最高記録保持者である具志堅用高に迫る12度の防衛を果たしてきたスーパーチャンピオンの終焉は、こんな試合で良かったのだろうか。

ネリは最後の試合の相手としてふさわしいのだろうか。


今回のような体重超過という問題は以前からある。

体重超過でタイトルを剥奪されたとしても、勝ち続けていればまたチャンスはやってくるだろうという楽観的な風潮が漂ってしまっている。

「キッチリと減量をして負けるくらいなら、体重超過でも勝った方がマシ」

こんなことを思っている選手もいるのではないか。


今後のボクシング界のことを考えるのであれば、こういったことには断固として厳しい処置を行うべきである。

ルールに乗っ取って厳しい減量をクリアしてきた対戦相手に失礼だとは思わないのか。

世界戦ともなればスポンサーがつき、テレビ中継が入り、会場にもたくさんのファンがつめかける。

世界戦のリングに立つ選手には、これにふさわしいだけの自覚と責任が必要とされるはず。

体重超過などという失態を見せることにより、どれだけの人間の心を傷つけ失望させるのか。

体重超過をした選手は永久追放でも構わない。

2度と世界戦のリングに上がるべきではないのだ。



この試合後、ネリは勝利の雄たけびをあげていた。

ネリ陣営が喜びを爆発させる姿を冷めた目で見ていた人は多いはず。

いや、会場にいた全員がネリに対して疑問を感じていたのではないか。


ルール違反をした人間が、なぜここまで喜べるのか。

山中に、帝拳陣営に、そして会場のお客さんに詫びなくてはならないのではないのか。


後味が悪い。


試合内容に触れる。

山中のボクサー人生はモレノとの2戦目で終わっていたのだと思う。

世界戦をこなしていく中で徐々に打たれ弱くなっていった。

ダウン癖がついてしまい、何でもないパンチでもグラついてしまう場面が増えた。


今回の試合は、山中のダウン癖がどこまで修正されているかにかかっていた。

世界戦のリングにおいて、1発ももらわないということは不可能に近い。

山中が優勢に試合を運んでいたとしても、1発でグラついてしまえば形勢は逆転してしまう。


1ラウンド、

ネリのパンチがカウンターで入った瞬間に試合は終わった。

山中のすべてが終わってしまったからだ。


世界戦のリングに上がる選手が、こんなパンチ1発でグラつくなどということはない。

山中は、もう世界戦のリングに上がれる状態ではなかった。

これなら日本チャンピオンクラスの選手と試合をしたってどうなるかわからない。


約20年前の1999年、同じWBCバンタム級のタイトルをかけて行われた試合を思い出していた。

ウィラポンvs辰吉丈一郎。

前年、辰吉は壮絶なるKO負けを喫していた。

すべてをかけて挑んだリマッチ。

辰吉の肉体に蓄積されたダメージが抜けきることはなかった。

人間サンドバックとなった辰吉の姿。


今回の山中が、あの時の辰吉の姿と重なって見えた。

かつてのスーパーチャンピオンの面影はもうない。


山中には「お疲れ様」と言いたい。

山中は日本ボクシング界の歴史に残るスーパーチャンピオンであることに間違いはない。

伝説を作り上げてきた神の左は永遠に語り継がれるであろう。



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