辰吉丈一郎は自らの自伝にも記していたが、

若かりし頃にピューマ渡久地とあわや乱闘になりかけたことがある。


沖縄国体に大阪代表として選ばれ、そこに参加していた時のことである。

試合会場で辰吉がチームの仲間と談笑をしていた。

「沖縄の女ってごっつ綺麗なのも多いけど、ホンマ、ブサイクなのもおるな。見てみぃ、あそこにいる女。見られん顔や…(笑)」

辰吉がバカにしたように言った。

その言い方がなんともおかしい。

仲間たちは大爆笑をしてしまった。

「ほんま、そうやろ。ブッサイクな顔やろ…」

辰吉も爆笑である。


と、このタイミングで辰吉の後ろで何やら動きがあった。

振り返ると、小柄だが目つきの鋭い同じ歳くらいの男が立っている。

「あ…、そや、沖縄の選手やったな、フライ級の、名前は、たしか渡久地…」

その渡久地が何かを言っている。

沖縄訛りで早口、何を言っているのか理解できない。

「儲かってまっか?」

辰吉にはこう聞こえたために、「別に儲かってへんよ…」と答えた。

「なめとるのか、おのれは」

渡久地は完全にキレた。

渡久地が辰吉に詰め寄る。

もう爆発寸前である。

「こいつ、何を怒ってるのや?」

渡久地は「儲かってまっか?」と言ったわけではない。

「もう一回、言うてみんか」と言ったのだった。

それを辰吉が勘違いしていただけ。

辰吉が冗談で言った、「沖縄の女はブサイク」という言葉に渡久地が過剰に反応していたということがわかった。

しかし、辰吉もここまできたら引き下がるわけにはいかない。

同じ歳くらいの奴に文句をつけられることに無性に腹が立っていった。

かつてはケンカで名を轟かせていた男だ。

徐々に頭に血がのぼっていく。

「てめぇ、ふざけやがって…」

渡久地の怒りは収まらない。

「邪魔や、邪魔や。お前こそ文句あんのけ」

いよいよ辰吉も沸点に達した。

渡久地に顔を近づけていく。

一触即発だ。

2~3人の辰吉の仲間が割って入る。

「やめ、やめ、辰吉。すんませんな、こいつちょっと頭、いかれとるんですわ。かんべんしてや…」

渡久地の機嫌をとろうとした。

辰吉は納得ができない。

やるならやってやろう。ブッ飛ばしてやる。

しかし、仲間が辰吉に合図をした。

辰吉がその方向を見ると、そこには当時の大阪帝拳会長である吉井の姿があったのだ。

吉井が険しい顔をしてこちらを見ている。

この場は、これで終わらすしかない。


この大会が終了した後、辰吉と渡久地は互いの実力を認め合い意気投合していく。

辰吉が胸のうちを渡久地に語った。

「ほんまはアマチュアじゃなく、プロでやりたいんや」

「プロになったら絶対世界獲れよ。お前なら獲れる。お互い、頑張ろうや」

渡久地は返した。


後に、「平成三羽ガラス」として、辰吉、渡久地、鬼塚の3選手が話題となっていくことになる。


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